『英語多読 すべての悩みは量が解決する』は話を盛りすぎ?多読歴10年が本音レビュー

- 英語多読についての本を読んだけど、なんかうさんくさい
- ホントに辞書を引かなくていいの?
- 実際に多読をやってる人の意見を聞きたい
「英語多読」について調べると必ず出てくる「すべての悩みは量が解決する!」という本。
僕は多読を2016年3月から約10年継続していますが、この本を初めて読んだときの感想は↓です。

話を盛りすぎ。内容が古すぎ。多読以外を否定しすぎ・・
せっかくいいことも書いてあるのに、意見が多読に偏りすぎて全体として信憑性がありません。
この記事では多読歴10年の僕が「ここは納得いかない!」という点について説明し、その上でこの本のいいところを述べていきます。
多読が気になっている人にぜひ知っておいてもらいたい内容なので、ぜひ最後まで読んでみてください!
著者の主張は「多読最強!暗記はクソ!」

この本の著者の主張を意訳すると「多読が最強!よくある暗記型の勉強法はクソ!」です。
(本文中で『クソ』とは言っていませんが、それぐらいの言い方をされています)
中学、高校の6年間で読む英語は約8万語前後。一生懸命勉強した人でも10万語程度ではないでしょうか。これは、日本語の文庫本に当たる、英語のペーパーバック1冊分の一般的な分量とほぼ同じです。
そこで考えてみてください。日本語の文庫本1冊を6年間かけて読んでいる外国人がいるとして、あなたはその人が、6年後に日本語がうまくなっていると思いますか?
同じように英語でも、その程度の量で英語の力が身に付くなんて、あり得ない話ですよね。
「学校教育だけでは圧倒的に『量』が足りない。だから多読が必要だ」
ここまではわかります。では次の意見はどうでしょうか。
学校英語や英語学習が想定している吸収量はお話にならないほどささやかなものですが、質の悪さも言葉を失うほどです。あなたも質の悪い「英語」を信じているかもしれません。ちょっと確かめてみましょう。
次の設問を読んで、正しいと思う場合はYes、間違っていると思う場合はNoにチェックを付けてください。
- onは「上に」である
- climbは「登る」である
- wearは「着ている」である
- 英語のI、youは「私、あなた」である
- this、it、thatは「これ、それ、あれ」である
(以下略)
予想がついているかもしれませんが、正解はすべてNoです、
Yesの数が多いほど、学校英語とその後の英語学習に毒されていると言っていいでしょう。でも、上の質問は学校英語と英語学習の間違いのごくごく一部です。ほかにも山ほど、いや比喩ではなく山と同じくらい「英語の常識」には間違いがあります。上のような「常識」を正す本を書いたら何十巻あっても足りません。
「学校英語では間違ったことばかり教えられる。だから多読で正しい英語を身につけるべきだ」というのがこの本の大前提です。
- onは「接触している」ことを示すだけで、上に載っている場合以外にも使える!
- はしごを下りるときには『climb down』という表現をするから、『climb=登る』は間違い!
- wearは帽子にも靴にも靴下にも使うから、『着ている』だけではなく『被っている、履いている』という意味もある!
- I、you、this、it、thatにももっと幅広い意味がある!
確かに、「on」についてはよくある間違いです。
ただ、最近の単語帳には普通に「~に接して」の意味も書いてあります↓

「climb」も「wear」については『あげ足とり』のような細かい指摘です。
英語の「climb」の意味に完全に一致する日本語なんてないんだから、ざっくり「登る」で覚えさせるのは極めて合理的な方法だと思います。
そのあと多読で「climb down」に出会ったら「climbには『登る』以外の意味もあるんだな」と1つ1つ覚えていけば問題ありません。
以上、著者の1つ目の主張は「学校教育はウソばかりだから多読だけやれ」でした。
2つ目の主張は「学校英語はつまらないけど、多読は楽しいよ!」です↓
多読が英語学習と大きく違う点がもう一つあります。それは多読を始めた1日目から楽しいという点です。
多読では、自分がやりたいこと、楽しいと感じることしかしません(なにしろそれ以外は投げてしまうので!)。
初めは文字のほとんどない絵本やアニメですが、それでも楽しい(もちろん絵本やアニメが楽しくなければやめます)。
それから数週間のうちには結構文字のある絵本やちゃんと英語をしゃべるアニメを「おお、結構楽しめる!」と思い始める。
そしてそのまま「楽しい、楽しい」と喜んでいるうちにペーパーバックが英語のまま楽しめるし、海外ドラマを字幕なしで堪能できて、会話や試験もあっさりできるようになる。
いきなり英語の絵本を大量に渡して「これ楽しいから読んでみて!学校の授業なんて受けなくていいよ!」と言うのが著者のやり方です。
ちなみに紹介されている絵本はこんな感じ↓

冷静に考えて、英語がまったくわからない人が英語の絵本を渡されて「楽しい」と思えるでしょうか?
大人が『1歳や2歳の子供に読み聞かせるような絵本』を大量に読むような勉強法を「努力も我慢もゼロ」と言えるでしょうか?

多読を10年やってきた僕からしたら、「多読だけで海外ドラマを字幕なしで観られるようになって試験や会話も余裕」は詐欺と言われてもしかたない誇張表現です。
僕は海外ドラマを英語字幕ではわりと観られるようになりましたが、字幕なしなんて絶対ムリです。英会話もそれなりにできるようになりましたが、まだまだ自信はありません。
TOEICも多読だけでは725点が限界だったので、1ヶ月だけ暗記を頑張って875点を取りました。
こんなことを言うと著者に「それはお前の努力と我慢が足りないからだ」と言われるでしょうか?
多読は『最強の勉強法』ではなく『弱者の唯一の抜け道』

「多読が最強!暗記はクソ!」というのが著者の主張でしたが、
『多読も暗記もできる努力家』が最強に決まっています。

僕の親友の話をさせてください。小学校からの友達のヒロ君です。
彼は僕と同じ小中学校、同じ塾に通っていましたが、県内トップ高 ⇒ 東大に進学しました。
彼は「努力家」という言葉では片づけられないほどの努力家で、単語帳や文法書の内容を覚えまくっていました。
その上で「ハリーポッターの原作を英語で読む」みたいな『多読』的な勉強もやっていて、高校に入ってすぐぐらいに英検2級を取得。
社会人になってからは海外で活躍。いまは日本にいますが、英語を使って活躍しているそうです。
英語がペラペラな人はみんな暗記もやっています。
塾でずっとヒロ君の隣の席に座っていた僕はめちゃくちゃコンプレックスを抱えていました。
彼と同じように単語帳や文法書をがんばってみるけど、どうしても続かない。どうしても暗記ができない。

そのまま英語コンプレックスを克服できずに社会人になった僕を救ってくれたのが「英語多読」です。
- わからないところは飛ばしていい
- 覚えようとしなくていい
- とにかく楽しく続ければ伸びる
東大を受けるヒロ君の努力をすぐ近くで見てきた僕にとって、英語多読が「最強の勉強法」じゃないことは明白です。こんな手抜きな勉強法で彼に勝てるわけがない。
でも僕が英語を身につけるには多読しかありませんでした。
多読のおかげでTOEIC875点を取れて、ハリーポッターの原作小説を英語で全巻読破しました。
全然ペラペラじゃないけど、アメリカ人と急に2人きりにされても問題ないし、日本人としてはかなり英語ができる方だと思います。
単語と文法の暗記ができるならそれに越したことはないですが、暗記がムリなら「多読」という抜け道があります。
ただ、多読はめちゃくちゃ楽しい勉強法ですが、いきなり楽しいわけではありません。
僕も最初は英語の小説なんて意味わからないし、すぐに投げ出したくなりました。
それでも気合で2~3冊読破してみると、見える景色が変わってくることを実感しました。
1冊目以上にキツいハードルはないので、まずは1冊目を気合で読破してみてください。
↑これが僕の主張です。
辞書はホントは引きまくった方がいいに決まってる
著者は辞書を「捨てろ」と言っています。
「辞書はできるだけ引かないようにしよう」ではなく「捨てろ」です。
英語の本を読み続けるのに苦労する理由、それは分からない単語が出てくるたびに辞書を引くからです。
辞書を引くというのは次のような行為です。
分からない単語が出てくる→物語を読むのを中断する→辞書を開く→その単語を探す→意味を調べて、なるほどと理解する→辞書を傍らに置く→最初の本を再び手に取る→分からない単語に辞書で調べた日本語の意味を当てはめる→なるほど、と深くうなずく→次の文章に移る→すぐにまた分からない単語が出てくる→振り出しに戻る……
ね、こんなことやっていたら本を読むどころじゃないでしょう?
紙の辞書の話でしょうか?さすがに話が古すぎます。2018年初版の本とは思えません。
いまどきは電子書籍アプリ「Kindle」で単語を長押しするだけで単語の意味を調べられます↓

もちろん「知らない単語の意味を全て調べていたら本を読むどころではない」には100%同意です。
でも『ストーリー的に明らかに重要な単語』や『くり返し出てくるけど意味がわからない単語』まで辞書を引かずに読み進めるのはむしろストレスです。
英語学習としていえば、辞書なんて引きまくった方がいいに決まってます。
英語を最短で身につけたいなら、わからない単語は全て調べて、ノートにまとめて、定期的に復習するべき。
そんなキツイことができない人のための抜け道が多読なんです。
辞書を引くのは全然OK。でも知らない単語を全部調べたり、調べた単語をメモしたりするのは楽しくなくなるからNG。
自分がいちばん楽しめる「辞書を引く頻度」を見つけることが多読初心者の第一目標です。
『英語多読 すべての悩みは量が解決する』のいいところ4選
ここまでは『英語多読 すべての悩みは量が解決する』の納得いかない点を述べてきました。
正直まだまだ言いたいことはあるんですが、キリがないのでここまでにしておきます。
- 多読にも『努力』や『我慢』は必要。いきなり楽しいわけじゃない
- 多読は『最強の勉強法』じゃなくて『弱者の唯一の抜け道』
- 辞書はどんどん引いていい。でも引きすぎには注意
ここからは『英語多読 すべての悩みは量が解決する』の中から「いいこと書いてある!」と思ったところを引用していきます。
①多読で「訳さなくてもわかる英語」が増える
この本を読んでいるあなたは、どんなに英語が苦手といっても、少なくともThank you.とかGood morning.とかI love you.くらいだったら、別に辞書を引かなくても分かるでしょう。
それに、頭の中でいちいち「ありがとう」とか「おはよう」とか「私はあなたを愛しています」なんて日本語に訳したりはしないのではないですか?日本語に訳さなくても、英語に対して直接反応できている。これが大切なのです。そして、こういった日本語に訳さなくても英語に直接反応できる言葉がどんどん増えていき、英語に慣れていくことが、多読の目的です。
↑これは多読の効果を端的に表した名文だと思います。
多読を続けると、「サンキュー」みたいに『わざわざ訳さなくても意味がわかる英語』の範囲が広がっていくんです。
「英語⇒日本語」という脳の切り替えがどんどん少なくなるので、英語を読んでても疲れなくなってきます。

英語を読んでも疲れなくなるとさらに大量の英語を読めるので、好循環でどんどん英語力が伸びていきます!
②これまで暗記で失敗した人はこれからも暗記はムリ
一度うまくいかなかったやり方なのですから 、 再びうまくいかなくても当然です。
↑これはホントにそう。なんで学生時代に暗記で何度も何度も失敗したのに暗記にこだわったんだろうと思います。

暗記NGな人はぜひ多読やりましょう!
③「伸ばそう」と思わず、楽しんでたら自然と伸びる
多読で成果が上がらない場合にほぼ共通していると思われるのは、「楽しんでいない」ことです。
何冊読んだ、何語読んだ、レベルが上がったといった数字にとらわれていると、絵の豊かさや、物語の展開や、世界の不思議さに心を動かされません。心が動かないと、内容を伝えるはずの言葉も吸収されないように思われます。
英語の先生の多くは、英語の本を読むことを「読書」ではなく「読解」と勘違いしています。
でも作者は、読者に自分の紡ぎあげた物語を味わい、楽しんでもらいたいと思い、本を書いているのであって、別にスパイが敵国の暗号を解読するように、自分の小説をバラバラの単語に分類して、いちいち意味や文法を分析してもらいたいと思っているわけではありません。
単語暗記や文法問題には、互いにつながりのない切れ切れの英文しか入っていません。ところが本やアニメやドラマや映画は、作品一つごとに一つの世界と一つの物語が語られています。世界と物語と場面と登場人物と言葉には、すべて有機的なつながりがあります。単語帳や問題集で無理やりのどの奥に押し込んだ単語や文法は時間がたてば忘れますが、多読で吸収した英語は私たちの中で「生きている」と言っていいでしょう。私たちの心と頭と体の中で根を張り、ほかの物語と通じ合って成長します。
↑これらもホントにそうで、伸び悩んでるときほど『数字』や『文法』ばっかり気にして楽しめなくなります。
「楽しんでるから量をこなせる⇒自然と伸びる」が多読の本質なので、「いかに楽しむか」を試行錯誤していきたいですね。

楽しんで覚えた英語は一生忘れません!
④多読でリスニングとスピーキングも伸びる
多読は読むだけなのに、聞くことも話すこともできるようになります。それは2002年に多読普及が始まって間もなく分かったことでした。読んでいるだけなのに、音声にも変化が出るというのは私自身が半信半疑でした。その後続々とそういう例が出てきて、私は納得しました。多読で「英語の語順のまま理解できるようになると、聞こえて来る順番で理解できるようになる」のだと思われます。
あなたの英会話学校は、体に英語が十分たまっていないのに無理やり英語をしゃべらせていませんか?いつも同じパターンで先生とやり取りしていないでしょうか?十分な量がたまっていないのに無理やり英語を口から出そうとすると、もどかしいばかりです。英会話学校の最大の弱点は、英語の吸収量が少ないことです。
多読だけで英語が100%聞き取れるようになったりペラペラになったりすることはないですが、英語を大量に読むだけでも『リスニング力』と『英会話力』は確実に伸びます。
- 英語を読みまくって英語の処理速度が上がる→耳から入ってくる英語もすぐに処理できる→リスニングができる
- 英語を読みまくって頭の中に英語のストックが貯まる→口から英語が溢れ出てくる
↑これは僕も多読を始めて3ヶ月ぐらいで実感したことです。
いきなり『読む』『聞く』『書く』『話す』を同時に勉強してもなかなか伸びないのに、
『読む』に集中すると『聞く』『書く』『話す』が自然とできるようになるんです。

リスニングの練習は英語を読みまくってから!
英会話の練習は英語を読みまくって聞きまくってから!
『すべての悩みは量が解決する』は半信半疑で読むのがちょうどいい
『すべての悩みは量が解決する』はどう考えても話を盛りすぎですが、いいことも書いてあるし、情報量も多いです。
多読未経験の人がウソとホントを見抜けるかは微妙なところですが、半信半疑で読むには問題ないかと思います。

英語多読について知りたい人は「英語耳」と「ビッグファットキャット」がおすすめ↓

英語を完全に聞き取れる「英語耳」の状態になるために最終的に必要となるのは、「語彙力」と「読解力」です。
【語彙力】
知らない単語があると、いくら音が聞き取れても意味がわかりません。文脈で推測できることもありますが、何度聞いても見当すらつかないこともよくあります。ある程度の語彙を「正しい発音」といっしょに習得しておくことが絶対に必要です。
【読解力】
読解力についても同様です。読んでも理解できない英文は、いくら聞いてもわかりません。読んでわかっても、話すスピードを超えた速度で英文を理解できなければ、聞き取ることができません。
これらの問題を一気に解決する方法が、英語での読書です。
英語力を劇的に伸ばすための方法が2つあります。1つは、発音習得のための「音読」です。もう1つが、理解力向上のための「洋書の多読」です。音読練習の継続により、発音と聞き取る力が高まり、そこに多読による英文を理解する力がかみ合うと、英語力が面白いように向上します。

英語が難しいのは、読み、聞き、書き、話すことを同時にしようとするからです。読むだけなら、動詞の変化も、単語の綴りも、難解な文法も覚える必要はありません。ある程度 日常の単語を知っていれば、ほんの少しのルールとコツだけで、すぐに読み始めることができます。
読めば読むほど、頭の中でパズルのピースがどんどんはまっていきます。カチッとはまった時の感覚は爽快です。どこにもはまらないと思っていたピースがはまった時などは、胸の奥から感動がこみ上げてきます。
そうしてパズルのピースをたくさんはめ込めていくと、ある時、ふいに英語を「分かる!」と感じる瞬間がやってきます。英語ができるようになった人が、みんな経験している感動的な一瞬です。

↓僕が書いた「英語多読マニュアル」も読んでみてください!
